おすすめ本 -書評-

  • 14.10.19
    イラクサ
    アリス・マンロー

  • *2013年のはなしです
     
    虫の知らせか、たまたまか。
    ただ新潮クレストブックが好きでこの本を読んでいたところに、
    マンロー氏のノーベル文学賞候補のニュースが。
     
    「それってもしかして、この人なのか!」
     
    そしてわたしが読み終わった頃に、見事に受賞なさいました。
    おめでとうございます。
    うれしい、うれしいですよ!
    だってすっごくいいんですもん!
    それにまさに今読んでいる作家が大きな賞を受賞するなんて、
    なかなか経験できることではなかったので、なんだかレースでも見ているような
    すっごい臨場感がありました。うふふ。
     
    そんなマンローの小説ですが。
    陳腐な言い方をするならば、彼女の文章は心の襞の隙間を余すことなく書いていきます。
    それもこちらが気にせずに過ごしていたような小さな小さな感情を、
    情報過多にならず、一番最適で、今までみたことがないけど
    とてもシンプルな言葉で表現してくれます。
    だから小難しい小説、というよりは「そうか、そうだったよ、分かる!」と
    ひざをぽんと打ちたくなる瞬間が多く、親近感を抱きやすいような気がします。
    そして登場人物が生きてます。「なんだこいつ…」といういかにも
    書割のような人間ではなく、怒って笑い、悲しんでは喜ぶ、
    本当に生きていれば当たり前のことをしていて、読んでいて全く飽きません。
     
    なーんてよく意味わかんないですよね。
    今82歳で現役作家で、女性らしい鋭敏かつ落ち着いた感性をもつ文章です。
    なんてまとめておすすめしたらどうでしょうか?
    とりあえず、みんな読んで?。おもしろいから読んで?。
     
    「イラクサ」は9編の小説を収めた短編集なのですが、
    私が一番心に残ったのは「ポスト・アンド・ビームス」です。
    目に見えない閉塞感。かといって誰一人囚われているわけでもない。でも…。
    そんなささやかな息苦しさ、気持ちが痛くて痛くてどうしよう、という話(?)です。
    読み手によって、受け取り方は変わるでしょうが、
    私はこの作中の一文にほれぼれしてしましました。
    『ずっとずっとこの部屋にいて、どんどん鋭く軽く、針のように軽くなりたかった』
    すてき!すてきすぎるよマンローさん!
     
    そして忘れてならないのが訳者です。訳者の存在を全く感じさせません。うまい!職人!
    たまーにへたっぴいな人だと、訳者の影がちらほらする文章がありますが、
    あれだけは絶対にいただけない。ていうか許せない。
    ですがこの本はまったく心配ありません。訳文だとすっかり忘れさせてくれるほどです。
    というわけで、翻訳嫌いの方も、安心して読んでいただける本かと思います。
     
    なにはともあれ、おめでたいっす。
    しかし受賞したとたん、アマゾンの売れ行きがすっごいみたいで驚きですよ。
    でもそういうのって、いいことだと思います。
    本は読んでなんぼですもの。
    本屋さんもここぞとばかりに売りましょう!



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