おすすめ本 -書評-

  • 15.03.04
    ベイツ教授の受難
    デイヴィッド・ロッジ

  • ああ、また素敵な本を読んでしまいました。
    言わずとしれたコミックノベルの大家、
    デイビッド・ロッジ氏のなんとも読み応えのある小説です。
      
    主人公は大学を定年退職したベイツ教授。
    毎日に退屈していると同時に、自身の難聴に悩まされています。
    そんな教授、ふとしたことで女子学生に博士論文を見て欲しいと言われます。
    彼女には公認の担当教授がいるのでおおっぴらには指導できませんが、
    自尊心をくすぐられて内心嬉しいベイツ教授。
    しかしそう簡単には物事は進みません。
    頑固に磨きがかかる教授の父親、そして自分の難聴、
    さらにエキセントリックな女子学生のせいで
    たいくつだったベイツ教授の毎日はスパイ小説さながらの、
    はらはらどきどきの連続になって行くのです。
     
    コミックノベル、なんていうと
    いかにも軽佻浮薄で薄っぺらで、それこそ読んだらゴミ箱に捨てるような
    イメージですが、ロッジ氏の小説はそうではありません。
    むしろ真逆。
    重厚で緻密で一分の隙もありません。
    軽い=面白い、という図式はここでは成り立ちません。
    ロッジ氏の特徴的なブレスの長い文章に浸っていると、
    そこはもうイギリス。
    ロンドンより北を恐れるお父さんや、妻のフレッドのいう「ダーリン」が
    家の中をのしのし歩いているような気さえするほどです。
      
    作家として長い人だからでしょうか、
    今風の短くて見やすい、ぶつぶつと切れる文章とは違い、
    なにしろ1ページがびっしり文字で埋め尽くされています。
    下手すると、1ページでひとつも余白がないところがあったりします。
    ですので初めて読まれる方は、最初は覚悟がいるかと思います。
    少なくとも私はそうでした。
    「うわ、これは息が詰まって読みづらそう…」
    そして実際、リズムに乗るまで時間がかかりました。
    しかし一度エンジンがかかってしまえばもうこっちのもの。
    むしろ注意が途切れることがほとんどありません。
    あとはロッジ氏の思うがまま、ベイツ教授の目を通して、
    最高におもしろおかしい世界に突入です。
     
    いつも面白い小説を読んで思うのは、
    やっぱり小説ならではの面白さというのはいいなあ、という事です。
    映像や音で笑わすのではなく、文字を積みかさねて読者を笑わせる。
    勢いではなく、あくまで技巧の見せ所です。
    その技と力に感心するまえにすでに笑っている自分。
    嬉しけどくやしい、なんとも体の奥がうずうずする体験です。
     
    小説ってそんなに面白いっけ?
    疑心暗鬼なそんなあなたに、ぜひ読んでいただきたい一品です。
    しかし出だしからの言葉の洪水におののく方には、
    先にP・G・ウッドハウスのジーブスシリーズをおすすめします。
    こちらもコミック・ノベルの金字塔。
    読んで幸せになることうけあいです。
      



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