おすすめ本 -書評-

  • 16.07.27
    人生最後の食事
    デルテ・シッパー

  • 私が人生最後に食べたいのはカツ丼です。
     
    これはドイツのジャーナリストが、
    ハンブルクにあるホスピスで働く料理長、
    そして入居者に取材して書いたノンフィクションです。
       
    主人公はホスピスで働く中年男性ループレヒト。
    彼は一流レストランでしっくりこない自分を感じ、
    出世した料理人としては珍しく、自らホスピスの料理長になります。
    そんなループレヒトが様々な入居者のために、
    できるかぎりの心をこめた食事を作ります。
     
    ホスピスは病気が進んだ人が最後を穏やかに迎える為の場所、
    入居者の皆が聖人君子なわけではありません。
    どんなにループレヒトが心を砕いても、喜ばれるとは限りません。
    ホスピスでは『料理』というものの意味がレストランとは違うのです。
    自己満足にならないよう、でも時には新しい風を吹き込みながら、
    皆が本当に食べたいと思う料理を作って出す。
    入居者はループレヒトに感謝し、ある人は八つ当たりをしながら、
    食事を口に運び、そして旅立って行く。
    ループレヒトは別れに堪えないふりをして、
    時には旅で自分をリセットしながら、毎日厨房に立つのです。
     
    「ノンフィクション」と帯に書いてあったのですが、
    それを知らなければ私は小説だと思って読んでいたかもしれません。
    それは決して悪い意味ではなく、逆にとてもいい意味です。
    この本を読書中、まるで素敵なスープを飲んでいるように、
    気持ちが落ち着き、この世界から離れ難く、
    最後には小さなため息と共に最後のページを閉じました。
    後味はあくまですっきり。
    でも体中に滋味があふれます。
     
    上質なノンフィクションのスープ。
    体に染み渡ることうけあいです。
     



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