おすすめ本 -書評-

  • 14.10.18
    暗渠の宿
    西村賢太

  • 風俗嬢にまんまと騙される「けがれなき酒のへど」、
    恋人とのなぜかどこか不幸な同棲生活をつづった「暗渠の宿」、
    この二編が入っているのですが、うん、面白いっ!
     
    実は読む前は、すっごい憂鬱だったんです。
    私小説っていうのも好きではなかったし、
    やっぱり小説ならば小説というフィクションの舞台で
    その技量を見せつけてくんなきゃつまんないと思っていたし、
    そもそも貧乏で女を殴るような男の一人称語りなんて、
    絶対に好きになれるはずがない!と思ってたんです。
     
    が、読まず嫌いだけはいかん!と変な勇気を出して読んだところ…。
    「お、おもしろいやんか!!!」
     
    なにがいいって、この主人公の語り口がとってもスマートなのです。
    文章がとてもいい。軽妙と言っても軽すぎず、
    わざと古めかしいけどそれがきちんとこなれていて、
    「風俗嬢」「チェンジ!」なんて言葉とそれが相まって、
    すっごくいい雰囲気になっているんです。
     
    あと私小説ということがすごく先行して取りざたされていますが、
    そんなのははっきりいってどうでもいい。なにしろ読んでて面白いんです。
    ああ、この先どうなっちゃうんだー!と思ってページを次から次へと
    めくってしまう。ああ、賢太マジック。
     
    そして主人公がなぜかとってもチャーミングに感じてしまう摩訶不思議さ。
    変なところで真面目で、でもまずいラーメンを出す女に本気で腹を立て、
    そのくせやっぱり女が好きで、でもやっぱり手を出しちゃう、
    そんな主人公が愛すべき人物に見えてしまったミラクルを体験したら、
    もう読む手はとまりません。ああ、早く次の本が読みたい!
     
    そんなわけで、もし読まず嫌いの人がいたら、ぜひ読んでみる事をおすすめします。
    文章のうまさは、ほんとうに折り紙付きだと思いますし、
    濃いのに薄い、辛いのに甘い、なんだかミントチョコみたいな味がある小説です。
    うん、好きだっ!



    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
    にほんブログ村
PAGE TOP