おすすめ本 -書評-

  • 14.10.30
    マンハッタン・オプ
    矢作俊彦

  • 完璧な短編小説集。
    なーんていきなりおっきいこと言っちゃいましたが、
    結構本気でそう思ってます、はい。
     
    舞台はニューヨーク。
    私立探偵の私が、さまざまな事件に巻き込まれる。
    たったそれだけの、シンプルなハードボイルド短編小説です。
    そんな、一篇ほんの15分で読み終えちゃうような短編が
    ぎっしりつまった全4巻ですが、この短編のひとつぶひとつぶが
    ぜーんぶすっごい完成度の高さなんですよ。
    文章の切れ味の良さ、ストーリーのトリミング具合、
    どれをとっても「す、すてきっ」と本を胸に抱えて
    床に転げまわって手足をばたばたとさせたいくらい、すばらしい。
    もう読み終えるのが悲しくて、途中で読むのをやめようかと
    本気で悩んだくらいのおもしろさです。
     
    もしかしたら、人によってはこの文体や背景が「ちょっと臭くない?」と
    思うかもしれません。でもそこはハードボイルド。
    なにせ主人公は、カーフでできた黒のウィングチップの靴を買う、
    マンハッタンの私立探偵です。
    ぜひ、頭の先までどっぷりこの世界観に浸ってほしいところです。
     
    たとえば…
    「窓の四角く切り取られたマンハッタンは、平べったく、そして平和だ」
    「アスファルトを往く音が、メジャー・センブンスに変わった」
    「コーヒーより、マティニか、俺も賛成だね」
    くううぅーかっこいい!これを、書ける人が他にいますかって話ですよ、ええ。
     
    そんなマンハッタン・オプの読後は、
    極上の生わさび、を食べたような感じでしょうか。
    きちんと辛いくせに、そのくせほんのり甘い。
    そう、ハードボイルドと言っても、辛いだけじゃないんですよ奥様!
    このわずかな甘さが、この本をより「す、すてきっ!」に
    しているのではないかと、
    私は鼻息を荒くしながら考えるのであります。
    というかむしろ、この甘さがあるからこそ、
    ハードボイルドをよりハードボイルドらしくしているのかと、
    ちょっと分かったような気がしたのです。
     
    しかし。
    どうしてこんなに素敵な本が、本屋で売ってないんですかね?
    私はあちこち探したあげく、見つけられず、ネットで購入致しました。
    こういうステキ本は本屋で平積みして売るべきだと思いますよ!
    ていうか売ってよ、本屋さん!
     
    これより完璧な短編集を言え!と言われたら、まず思いつきませんし、
    同じくらいすごい短編集は、星新一やO・ヘンリーくらいしか思いつきません。
    あー、いい本読んだなぁ。



    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
    にほんブログ村
PAGE TOP