おすすめ本 -書評-

  • 15.01.16
    サルなりに思い出す事など
    ロバート・M・サポルスキー

  • 3400円。税金入れたら3672円。
    これだけあったら色々と楽しい事ができますよね。
    二人で映画を見に行けます。
    素敵なレストランで豪華な食事とコーヒーを楽しめます。
    だから思わず買うのをためらいました。
    そう、この本は3672円するのです。はっきりいって高いです。
    学生の頃なら間違いなく買えなかった金額です。
    しかしこの表紙のすんばらしさがどうしても忘れられず、
    二回目に本屋にいった時にむんずとつかんでレジに行きました。
      
    結果、買って大正解。
    そんじょそこらのノンフィクションじゃありません。
    道行く人々に無理矢理読ませたくなるほどの本当に素敵な本でした。
     
    著者はロバート・M・サポルスキー。
    ブルックリン生まれのユダヤ系アメリカ人です。
    この本はそんなサポルスキー氏が大学生の21歳の時から
    アフリカのセレンゲティ平原でヒヒの調査をした23年間を、
    事実とユーモアをうまく交えてまとめたノンフィクションになっています。
      
    著者はストレスに起因する疾病と行動について研究するため、
    ぴったりの研究対象としてヒヒを選びます。
    ヒヒ達は一日の四時間程度を食料の確保に費やす以外は
    人間の社会同様、お互いの関係性について頭を悩ましています。
    群れの中の順位、恋愛関係、子育て、友人関係。
    著者は群れの一頭一頭に名前をつけ、吹き矢で麻酔を撃ち、
    血液を採取してストレスレベルを調査していきます。
      
    なんて説明すると、ただのヒヒに対する学術書みたいですが、
    どころがどっこい場所はアフリカ。
    もちろんただヒヒのサンプルを採取するだけに終わりません。
    動物保護区の監視員からシマウマの肉をもらって大いに悩んだり、
    (著者はベジタリアンで、さらにシマウマは密猟に当たる)
    アメリカの教授からの送金が止まって自力で食料を調達したり、
    マサイ族にあこがれつつも実際の彼らにとまどったり頭を抱えたり、
    不正や嘘や搾取が当たり前の中で、上手に立ち回ったり
    やっぱり壁にぶちあたって怒髪天を突く勢いで怒ったり、
    さらにヒヒに悲劇が怒ってとことんまで打ちのめされたりと、
    疾風怒濤のエピソードの中で、筆者自身も成長していきます。
        
    ノンフィクションというと、ただ事実を書くと思われがちですが、
    小説よりもなによりも著者が透けて見えるのがノンフィクションです。
    そしてこの著者はとてもバランスのいい書き手です。
    科学出身者の物書きというすばらしい特徴のせいでしょうか、
    事実と感傷を上手な塩梅で料理して文章にしてくれています。
    ですので著者にとってははらわたが煮えくり返るような出来事でも、
    頭のどこかで冷静にとらえ、さらに文章にする時には
    もう一度客観的に見つめ直しているのがはっきりと分かります。
    特に大事なヒヒの群れが結核菌に冒される下りでは、
    筆者の怒りと悲しみががこれでもかというくらいに伝わってくるのと同時に、
    それをどう乗り越えようとしたのか、
    そしてその気持ちが時間と共にどうなるのかを冷静に、
    にじみでる悲しみと共に読者に現実というものを教えてくれます。
      
    たっぷりとした全405ページを読み終えた時、
    3672円におびえた自分がちょっぴり恥ずかしくなりました。
    これは価格以上の価値がある本です。



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