もじりすた
3度のめしより本が好き
読み散らかした中から、おすすめ本を紹介します。
探検家、高橋大輔氏が愛用する道具にまつわるエッセイです。
「気がつけばわたしは、砂漠のど真ん中で六匹の野犬に囲まれていた。」
これは『ミニマグライト2AA』に関する話の冒頭なのですが、
この一文を読んだ瞬間、私の周りの風景が一変しました。
暖かく安全な自宅から、風の吹きすさぶ猛烈な砂漠へ。
周りには何もない。
犬に投げる石さえもなく、あるのは砂と自分のみ。
犬とはいえ、飢えで野生に返っただろう野犬達は、
高橋氏を獲物として追いつめます。そしてついに…。
この先はぜひ本書を手に取っていただきたいのですが、
このマグライトの項目だけではなく、全45品の道具全てに
まつわる話が興味深いものばかりです。
探検には外せないコンパスや刃物、靴はもちろん、
正装につかうボウタイや、料理屋の箸袋まで。
探検という非日常のイベントだけでなく、
そこから垣間見える生身の息づかいも感じられる
バランスの良いラインナップです。
特に『地球儀1745』の項は、他の項目と違って
著者はどこかに出かけるわけではありません。
しかし探検の事前調査をしていた著者にとって、
この地球儀1745が大きな意味を持つのです。
モノとの必然の出会い。出会った事のある人にしか
分からないドラマが書かれています。
そして文章のみならず、写真もとても素敵です。
高橋氏の端正な文章によく合っていて、
ただのバンダナ一枚、ジップロック一枚(!)でも
思わずじっと見てしまうほどの一枚の絵になっています。
道具好きはもちろん、探検記が好きな人、
そしてあまり時間はないけど気分転換したい人には
本当にもってこいの本だと思います。
しかしなにより、一人でも多くの人に
ぜひ高橋氏の文章をぜひ読んで欲しいと思いました。
饒舌すぎもせず、かといってストイックすぎもせず、
落ち着いていて、そこはかとない美しさを感じる文章です。
しかし出てくるモノが色々欲しくなって困ってしまいます。
昔、友人にマグライトのすばらしさを説明されて、
ふーんと聞き流していたクチなのですが、
やっぱり買うべきか……と考え直してしまいました。
人生何があるか分かりません。
この先、砂漠で野犬に囲まれる事はない、とは言えませんからね。
(注:高橋氏の高は本当は旧字体です。変換できずに失礼しました)