もじりすた
3度のめしより本が好き
読み散らかした中から、おすすめ本を紹介します。
この本は第七回開高健ノンフィクション賞受賞作なのですが、
帯に選考委員の言葉がついていて、
その中の一つに、こんな言葉が載っていました。
『独特の傲慢な切れ味〜』
お?傲慢?
写真を見ると著者は女性。
女性で傲慢な文章を書く人なんて、珍しい!読んでみたい!
と俄然興味を持って読んでみたところ…
傲慢なんてとんでもない。
すばらしい書き手に出会いました。
本の内容は、著者である中村安希氏が26歳の春に47カ国、
2年間の旅に出た際の記録です。
もちろん著者自身が考え、感じ、
体験した事が元で書かれている本なのですが、
著者自身の主義主張が不思議なくらいの透明感で書かれています。
とはいえ、同世代の女性がおしゃれをして街を歩いている歳に、
たった45リッットルのバックパック1つで旅に出る人ですから、
腹の底には信念にも似た強い思いがあります。
でもそれを著者は声高には叫びません。
ただただあるがままを書いた、という感じで旅が進みます。
ですので内容も主観をできるだけのぞいた旅行記、と言えばいいでしょうか。
とはいえもちろん実体験ですので
主観がないわけがないのですが、不思議なくらいに
著者の考えが押さえられている、と感じさせる静かな文章です。
しかしそれは繊細とはまた違う、細く美しい針金のような、
言い訳をいっさいしない潔い語り口の文章です。
その潔さが顕著に表れているのが、著者の姉と会うネパールの場面、
そして旅の終着地ポルトガルの場面です。
自身の姉に会う、旅のゴール、どちらも話の山場になります。
普通の書き手なら、色んな角度で状況を説明し、自身の心情を吐露し、
何ページも枚数を重ねるところです。
しかし、中村氏はこれをしない。
読み手が「え?」と思うほどにあっさりと話が終わります。
どうして、もったいない!と私は読みながら思ったのですが、
最後になんとなく理由が分かりました。
もちろん私の想像ですが、最後まで読んだ人は同じ事を考えるのではないでしょうか。
ああそうか、この人はこの本でこういう事を伝えたかったのか、と。
まさにインパラの朝、というタイトルがふさわしい、
本当にすがすがしい魅力の本でした。