おすすめ本 -書評-

  • 16.12.02
    105歳の料理人ローズの愛と笑いと復讐
    フランツ=オリヴィエ・ジズベール

  •   
     
     
     
     
    タイトルそのまんま、
    105歳だけどまだまだ現役料理人、
    手にはピストル、脳みそにはイケナイ妄想、
    そんな女料理人ローズの回顧録という形で物語は進みます。
     
    ローズの人生は、歴史に翻弄されてきました。
    小さい頃にアルメニア人大虐殺で家族を失い、
    その後は奴隷のような生活を送り、
    ひょんなところからつかの間の幸せを味わったら
    再び地獄のような生活に戻り、
    それでもやっと幸せをつかんだと思ったら、
    今度はヒトラーのせいで再び全てを奪われ、
    さまよい、今度こそ愛を手に入れたと思ったら、
    今度は毛沢東のせいでふたたび…。
    歴史の被害者といっても過言ではない、過酷な人生です。
     
    なんて書くと、真面目で辛くて、少しも笑えない、
    お固い話しかと思われてしまうのですが、
    そこは作者の技が光るところ。そんなことは全くない。
    この本、すっごーい面白いんです!
    さすが、フランスでベストセラーになっただけありますね。
    痛快エンターテイメント、と言ってもおかしくないくらい、
    鮮やかにぐいぐいと読ませます。
     
    なにしろ主人公のローズが一筋縄ではいきません。
    どんなにひどい仕打ちを受けても、へこたれない。
    もちろん落ち込んだり、泣いたりはするけれど、前に進むのです。
    そしてなにより、復讐を忘れない。
    ひどい目にあって、泣き寝入りなんて絶対にしないのです。
    やられたらやりかえす。淡々と、しっかりと。
    普通だったらモラルに反するところですが、
    ローズの人生を考えれば、むしろすっきりするほどの復讐っぷりです。
     
    そんなローズの人生を読み終えて、ふと一つ疑問に思いました。
    「いくらなんでも、歴史的に大きな出来事に出会いすぎじゃない?」
    アルメニア人虐殺、ヒトラー、毛沢東。
    小説だから、なんでもありといえばそうだけど、それにしてもすごすぎる。
    そう思って首をひねった次の瞬間、作者の意図が見えたのです。
    『これはローズの話にみせかけた、人類みんなの話なんだ』と。
    誰にでも起こりうる、歴史の現実を小説に起こした話なのだと。
    読みやすい語り口で、痛快に飛ばしているけれど、
    これは戦争に警鐘を鳴らす小説なのではないでしょうか。
     
    しかし本当にいい本を読みました。大満足!
      
     
    《余談》
    知人のフランス人に聞いたところ、
    原題はフランス語で「ヒムラーの女料理人」だそうですが、
    恥ずかしながら私、ヒムラーを知りませんでした。
    教えてくれたフランス人はもちろん知っていました。
    べ、勉強しなくちゃ…。

     



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