おすすめ本 -書評-

  • 09.11.21
    停電の夜に
    ジュンパ・ラヒリ



  • ああ…いい本を読んでしまった…。




    インド系の人たちを主軸とした、短編9編の入った本です。
    アメリカに移民したり、インドにいたり、それをアメリカ人の視点からみたり。
    私にとって、「こんな本、初めて見た…」でした。


    インドを舞台にした小説は少なく(探せばあるのでしょうが)、
    さらにインド系の人たちに焦点を当てた小説など見たこともなく、
    少なくとも私はこれまで読んだことがありませんでした。
    失礼なことに、「もしかしてマサラムービー的なお気楽極楽小説?」
    なーんて思って手に取ったので、反省することしきりでした。
    「ごめん!すごいじゃん、これ!」と。


    特に中の一遍、「ピルザダさんが食事に来たころ」で、
    主人公であるわたしが、故郷を想うピルザダさんを心配してお菓子を毎日一つずつ、
    お祈りをしながら食べるところで心の琴線がかきならされました。
    私にも覚えがあります。
    小さいころ、自分だけのおまじないがあったんです。
    それを遠い海の向こうで文化も環境も違うラヒリという人が
    同じ気持ちで書いたのかと思うと、
    なんだか胸がきゅーんとしてしまったのです。


    それは「共感」、という言葉にすると分かりやすいのかもしれません。
    他にもこの本で共感したシチュエーション、フレーズはたくさんあります。
    それこそ日本の小説よりも、たくさんあって驚いたほどです。
    でもそれだけじゃないのです。
    たしかに共感して身近に感じたのも事実ですが、
    この人の文章はさらにそれを突き放す冷静さがあって、
    それがさらに私の胸をきゅきゅきゅーんとさせてくれました。
    読み終わった後に色々考えてしまう本で、
    まさに表紙の写真そのもの、いろんなスパイスが入れられています。
    味わい深い、美味しい一冊でした。


    そして。
    この「新潮社クレスト・ブックス」のシリーズは装丁が美しくていいですね。
    さらにくやしいことに(?)、外見だけでなく、中身もいい本が多い。
    気がつくと手に取ってしまう、魔性の本です。



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