おすすめ本 -書評-

  • 10.02.16
    東京忌憚集
    村上春樹



  • はっきり言って、苦手でした。
    キライと言っても過言じゃありません。
    …ええ。大勢を敵にまわすことを覚悟で告白します。
    「わたしは村上春樹が大きらいだった!」


    カンのいい方は、もうお気づきですね。
    そう、「きらいだった」。過去形なのですよ。
    この本を読んでしまったからには、もうキライだなんて言えません。




    『東京忌憚集』は5つの短編集で構成されています。
    テーマ、なんてえらそうなことを強いていうなら「悲しみ」でしょうか。
    日常生活の陰に、ひっそりと息を殺している「悲しいこと」が
    シンプルに、はっきりと、それでも少しやさしく書かれている気がします。


    だからと言ってそれぞれの主人公たちは、
    話の終わりに特にしあわせになったりするわけではありません。
    ほぼ現状維持で明日を迎えます。
    もしかしたら前進しているのかもしれませんが、
    それはちょっと立ち位置が変わったくらいの変化でしかありません。
    小さかったり、大きかったりする悲しみは抱えたまんまです。
    ちなみにわたしは、このテの小説が苦手です。
    でこれをやられると「つまんねー!」と言いたくなることが多いのです。
    せっせとページを読み進んだあげく、
    主人公にこれといった成長がないんですよ?
    それってとっても、おもしろくないじゃなーい!


    でも、この本はちがったのですよ。
    それでいいと思えたんですよ。
    明日は今日の続きで、今日は昨日の続きなんですね。
    それがなんだか分かった気がしたんです。
    後にどこか苦味が残っても、
    それでもなんだかいいじゃないか、と。


    おいしいコーヒーに似ている、のかもしれません。



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