おすすめ本 -書評-

  • 10.03.18
    天使
    佐藤亜紀

  • 今、一番すごいと思う小説家をいいなさい。
    そういわれたら、間髪いれずに答えるでしょう。
    「それは佐藤亜紀!」


    す・て・き…


    この人の本は、すでに数冊読み終えているのですが、
    共通して感じることがあります。
    それは「登場人物に共感しない」ということです。


    多くの小説に言えることですが、読んでいるとたいてい
    自分のどこかを登場人物の誰かに感情移入し、
    その動きを楽しんだり憤慨することになります。
    それを楽しんで、最後まで読み終えるのです。
    しかし佐藤亜紀の小説はそれが一切ないのです。
    だれかに感情移入することがない。
    だからといって人物に魅力がないわけじゃありません。
    こちらが本にすりよらなくても、
    勝手に体がすりよっていく。
    それは文章におそろしほど強い力があるからです。


    佐藤亜紀の言葉には力があります。
    ページをめくるはしから、
    人々は勝手に動いて勝手に生きます。
    生き生きと、そのくせこちらに歩み寄りもせずに淡々と。
    それを読者である私はうっとりとした目で追いかけるのです。
    はっきりいってそれは極上のシアワセです。
    感情移入なんてしなくても、
    地の文を読むだけでふるふると心臓が震えるのですから、
    こんなに楽で幸せな読書はありません。
    やわらかくて芯の通った強い文章を追いかけるたびに、
    おもわず本に頬ずりをしたくなりました。


    いい本というのは、こういう本を指して言う言葉なのでしょう。
    今回の「天使」もまさにいい本。
    しかし一つ文句をいうならば、その帯。
    帯についていた、「天使達のサイキックウォーズ」という
    あおり文句がどうしようもなく陳腐に見えました。
    そんな安っぽいコピーでこの本にシミをつけないでほしいものです。
    せっかく、装丁だってステキなのに。


    本読みの虫として、会えてよかった本であります。



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