おすすめ本 -書評 最近の3冊-

  • 17.02.05
    マイケル・ムーア、語る。
    マイケル・ムーア

  •    
    みなさんご存知、社会派ドキュメンタリーの監督、
    タフで真面目なアメリカ人、マイケル・ムーア。
    その人がどのように育ち、どうして監督になったのか。
    その『これまで』が、愉快な語り口で饒舌に語られた本です。
     
    出だしはアカデミー賞の授賞式から始まります。
    壇上でブッシュ政権をこきおろしたことで
    前代未聞の大ブーイング、さらにそれは波紋をひろげ、
    あっというまに命さえも狙われれ始めます。
    あまりの脅迫の多さに家から出られなかったり、
    プロのボディーガードに命を助けてもらったりと、
    さすがのムーア氏もかなり落ち込みます。
    しかしそれであきらめることなく、
    ムーア氏は再び活動を始めるのです。
     
    とまあ、これだけでもムーア氏すごいわぁ、と思うのですが、
    本を読めば読むほど「……なんでこの人、こんなにタフなの?」と
    いう思いが否めません。
    高校教師の行いに疑問を感じ、彼らの上司となるべく
    教育委員会に立候補したり、
    アメリカ政府が水面下で推し進めていた、
    メキシコへの工場誘致のガイダンスへ身分を偽り潜入したり、
    地元企業の不正や人種差別を新聞ですっぱぬいたり、
    KKKの大規模な集会を取材したりと、
    ほんっっっとうにたくさんの行動を起こしてきた人なのです。
     
    しかしムーア氏はどうしてそのような、
    自分の安全がおびやかされるようなことばかりするのでしょうか。
    危険が大好き?もちろんアドレナリンは嫌いではないでしょう。
    なにより、人一倍「正義」に対して敏感だからではないでしょうか。
     
    正義というのはやっかいな代物で、
    みんな自分の正義が本当の正義だと思っています。
    とくに民主主義や自由の名の下、様々な正義が名を変えて歩いています。
    それにムーア氏はどうしても我慢がならない。
    どうして?それっておかしいでしょう?と
    子供さながらの無邪気な仮面をつけて、はっきりとてらいなく、
    大人のずるがしこい間違いを指摘していくのです。
       
    そんなムーア氏に対して、アメリカの人々が寛容かというと
    全くそんなことはありません。
    さすが自由の国。嫌がらせもフリーダムです。
    自由という名の下の不自由さ。
    読みやすい明るい口調の文章とはうらはらに、
    かなりすごみのある読み応えでした。



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  • 17.01.28
    モッキンバードの娘たち
    ショーン・ステュワート

  •  
    この小説はたくさんの要素がからみあっています。
    母と娘の物語であり、幻想的な『乗り手』の話でもあり、
    家族、そしてヒューストンのうだるような夏の話でもあり、
    そしてチキン・モーレの香りも無視できない、
    どの視点から見ても芳醇で心をひきつけられる、
    最高に美しくて味わい深いお話です。
     
    主人公は30歳の娘、トニ。
    保険数理士という確率を扱うお固い職業で、性格はもちろん頑固。
    そんなトニの母親の葬儀から物語は始まります。
    トニの母親はただの母親ではありません。
    普通の人では信じられないような不思議な力を持っていました。
    それじゃなくてもトニとは正反対の性格で、
    死後も穏やかにはいきません…というスタートで
    小説は進んでいきます。
     
    体感小説。この本を読んで、私はそう感じました。
    本来、小説というのはもちろん読むだけのものなので
    体験というところから少し離れたところにあるものですが、
    この小説に限っては、読んでいる間に様々なことを体験します。
    夏の暑さ、料理の香り、不思議な『乗り手』の匂い。
    小説なのに、現実それ以上に皮膚を通して感じるのです。
     
    これまで読書を趣味にしてきた方が読んだなら、
    この小説の美しいごった煮感に心の底からしびれ、
    小説ならではの、不思議な感覚にやみつきになるでしょう。
     
    ぜひページを開いて、モッキンバードの娘たちに
    会いにいって見てください。
    素敵な体験ができること請け合いです。



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  • 17.01.24
    ロボット・イン・ザ・ガーデン
    デボラ・インストール

  • ロボット小説とはいえ、これにはSFならではの小難しい単語や
    ややこしい設定はいっさい出て来ません。
    小説の舞台はちょっと未来のイギリス。
    無職のベンと、バリバリのキャリアウーマンのエイミーが
    暮らす家の庭に、ひょっこりロボットが現れる所から話が始まります。
     
    ロボットの見た目はがらくた同然。
    中身は幼児のような知能しかなく、
    捨てて来いというエイミーに反発してロボットをかくまったベンは、
    なんとロボットもろともエイミーに捨てられます。
    傷心で無職のベンは一路、ロボットを直す旅に出るのです。
     
    とまあ、ダメ男と子供ロボットの旅物語というわけなのですが、
    これがまあなんだかとっても面白いのです。
    飛行機に乗るエピソードからホテルに泊まるシーンに至るまで、
    細かいところで読み手をくすくすと笑わせます。
    もしくはふふふと口元がゆるんでしまうのです。
    ベンの人の良さと、ロボットであるタングの愛らしさが
    ぐいぐいと小説世界へと引っ張ります。
    ダメ男とロボットの旅は本当に楽しそうで、
    最後には小説世界から別れるのが本当に惜しいくらい。
    その楽しさは昼下がりのディズニーランドのパレードのように、
    読者をわくわくとどきどきさせ、そして最後まで幸せにしてくれます。
     
    どぎつい刺激はもうたくさん、
    あたたかくて素敵なお話で和みたいの!という人に
    本当におすすめの小説です。

     



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ブログ -最近の3件-

  • 17.03.09
    スタバという名の戦場


  •  
    先日、スターバックスにて
    「コーヒーに牛乳と砂糖が入った
     カフェラテのようなものが飲みたいのですが、
     どれがいいですか?」
    と、お店のお姉さんの目を見ながら質問できた私には、
    もう怖いものはありません。
     
    お姉さんはとても優しかったです。



  • 17.01.28
    たまには読書についてのまじめな話


  • 最近、本を読んでいて
    自分の『本の読み方』が変わったことに気がつきました。
     
    それまでは『ただただ読んで楽しい』だけだったのですが、
    最近は読後に『この小説はこういうアプローチをしていて、
    今まで読んだ小説とはちがう、新しい作り方をしているのだな』
    などと、これまでの経験をもとに、体系的に考えるようになりました。
     
    一歩進んだ感想といえばいいのでしょうか、
    そんな感想が自分の脳みそからでてくるとは正直驚きです。
     
    たぶん、ある程度の量を読んで来たからなのかもしれませんが、
    おかげでさらに読書が楽しくなりました。
    ただの一読者には違いなのですが、感想に幅がひろがったというか、
    読後にさらに読んだ本について考えることで、
    お楽しみが二倍になった感じがします。
    特に左記の高橋源一郎氏の本を読んで、その考えに確信が持てました。
     
    最近、おもしろい本がないんだよねー。
    そんな人にはぜひ読書から離れずに、
    少しこれまでとちがうジャンルに手を伸ばして、
    ぜひ読書の手を止めないでと言いたいです。
     
    その先には、さらに楽しい体験が待っていますよと。
     
    《余談》
    もしかしたら、美術も同じことが言えるのではないでしょうか。
    私はアートのことは全く分からず、とくに現代アートについては
    「これのなにがいいの?」状態だったのですが、
    読書について上記の考えになったとき、気がつきました。
    美術も経験があると、新しい作品をより一層、
    色んな角度から感じて楽しめる、ということはないでしょうか。
    ない?ない?だめ?



  • 16.12.10
    世界は美しい


  • 友人と話していた時のこと。
     
    友人の妹はカナダに住んでいて、
    気温の表現には華氏を使うと聞き、思わず
    「私、華氏とポンドとマイルを憎んでる」
    と言うと、友人曰く
    「ほんと色々あって、よくわからないよね。
     でもだから世界が美しいんだよね」と。
     
    確かに、その通りだ。



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